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組織の論理よりも個と個の関係。

私たちは「原点」に立ち戻れるか

ーー関 信浩 (聞き手:柴沼俊一・瀬川明秀 / 構成:Future Society 22)

ネットビジネスブームに沸きあがる1990年代後半。関信浩さんは、技術雑誌の記者として米国で取材をしていた。大企業やベンチャーへの取材を通じて興味をひかれたのは、テクノロジーより「ビジネス」だった。その後、米国のビジネススクールで学び、「ブログサービス」のシックス・アパートに参画したのも「ビジネスを自分の目で動かしたかったから」。以来15年、米国と日本、ベンチャーと大企業、ソフトとハードをつなぐ仕事に取り組んでいる関さんに、「Future Society」 はどんなふうに見えているのか。

関 信浩

米FabFoundry, Inc. 創業者。株式会社Darma Tech Labs 取締役、米Hoplite Power, Inc. 取締役、米Boston Biomotion, Inc. 取締役会オブザーバー、株式会社GENOVA顧問、シックス・アパート株式会社 顧問。

1969年、東京生まれ。1994年、東京大学工学部卒(BS取得。専攻は金属材料学)。1994年から2003年まで、日経BP社で編集や事業開発に従事。 2001年にロンドンビジネススクールの起業サマースクールに参加。2002年カーネギーメロン大学ビジネススクール経営大学院修了。2003年12月、シックス・アパート株式会社を設立し代表取締役に就任(2015年5月より顧問)。 2010年12月にコネクトフリー株式会社を共同創業し、共同創業者として参画(現任)。2011年6月にイクモア株式会社を共同創業し、共同創業者として参画(2015年12月に解散)。2015年2月にFabFoundry Inc.を設立し、創業者に就任(現任)。このほか複数のスタートアップの経営に参画している。

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――今日は「未来の話」をしたいと思っています。米シックス・アパートや米FabFoundry, Incをはじめ数々のスタートアップの経営に携わり、日本と米国を行き来する経営者の1人として、最近の「未来の話題」、特にAIのトレンドについてどうみているのかをお伺いしたいです。

その前にちょっとさかのぼりますが、関さんがシリコンバレーで取材をしていたのは1990年代後半 、いわゆるネット・ビジネスの勃興期でしたよね。時代の変化を目の当たりして、関さんは当時何を感じていたでしょう。

関:僕は1994年に出版社に入社し、ずっと技術雑誌の取材をしていました。大学は理科系だったし、技術雑誌の記者をしていると先端技術の話は分かってくるんです。何が面白いのか、新しいのか。何が問題なのか。

でも、ビジネスの話になるとピンとこなかった。もちろん、株主市場の仕組みや、経営がどういうものか、構造は分かります。でも、自分としての「実感」がないんです。なぜこのタイミングでIPOしたいのか、なぜ人を採用しないといけないのか、起業家たちの肌感覚が分からなかったんです。「だったら、ビジネスをやろうとしている連中が多い場所に行ってみよう」「実際にビジネスのプロセスをこの目でみてみよう」と考えました。

――それでビジネスススクールに入学したんですね。

関:ええ、でも実際に入ったら驚きました。当時のビジネススクールって、思ったより起業志望の人たちが少なくて、純粋にキャリアアップを目的としたひとたちばかりだったからです。仕方がないので、英国の起業サマースクールに行ったり、ビジネスコンテストにいくつも参加したりして、ビジネスプランを練っていました。そこで鍛えられたお陰で、卒業時に発表した事業計画は高い評価を得ました。そこで、「こうなったら実際に事業化したい」と思い、ちょうど米国出張中の社長を捕まえて、新規事業やらせてくれ、と直談判をしたんです。

――おお、そこで「GOサイン」が出たんですか。

関:「とりあえず帰国し、事業開発の部署に異動し、そこで準備しろ」と言われたんだけど、いつの間にか僕の計画は消え、別のプロジェクトの担当にはめられてしまった(笑)。

――え。

関:実は、僕の新規事業プロジェクトがはじまった頃、当時ネオテニーにいた伊藤穣一さんから連絡をもらっていたんです。「米国ではじまったブログのサービス会社がある。日本でも同時にサービスを立ち上げたいのでやらないか」と。これがシックス・アパートですね。生まれたばかりの技術ベンチャーを面白がる人って当時は少なかったみたいで、僕に声をかけてくれたんです。でも最初は「いま会社の新規プロジェクトをやっているんで」と断った。でも、断った直後に、会社のプロジェクトの中断が決定されて。

業務の引き継ぎもないし、1か月半ほど仕事もアサインされなかったので、「これは、もう行け、という天啓か」と考えて、会社をやめてシックス・アパートに参画することにしたんです。「会社をやめる」と言ったときには、会社のみんなが妙にやさしかったのを覚えています(笑)。

 

歴史は繰り返す。人間はテクノロジーを育てられるのか。

――それから15年。シックス・アパートをはじめ、数々のスタートアップの立ち上げに参画し、経営に携わってきましたわけですが。多くのスタートアップの興亡、いくつものテクノロジートレンドを見てきた関さんは、最近の「AIブーム」をどう見ているのでしょう。

関:ちょっと話がさらに過去に戻ってしまってもいいですか(笑)。僕、世界史が好きなんです。理系なんだけど大学受験の時も「世界史」で受験したぐらいで。世界史が好きな理由はいろいろあるんですが、その1つに、「歴史は繰り返す」ことへの興味があります。「他国が攻めてきて文明が滅びる。だけど復興していく」。スクラップ・アンド・ビルドの繰り返し。そして、その節目、節目には当時としては最先端の技術がある。その先端技術をうまく使った方がやはり強いんです。

でも、先端技術を使った国の人たちがすべて成功したかといえば、そうでもない。間違った判断で国は滅びてしまうし、テクノロジーを育てることを怠れば、技術そのものも簡単に消えてしまうのです。例えば、中国の陶磁器で一番優れた作品をつくっていた時期は宋の時代。景徳鎮の頃で、それ以上のものはでてこない。高級食材であるトリュフも19世紀頃は人の手で栽培されていたのに、今はその技術が消え、豚に探してもらっているわけです。

だから、強かった国も、次の戦争が起きた頃には武器をつくる部品がつくれなくなっていることがある。30年ぐらいで状況は変わってしまうんです。この繰り返し。人間ってまったく進化しないんです。

――テクノロジーは育て守る限りは成長していく。だけど、それを使う人間は成長せずに同じことを繰り返す生き物である、と。テクノロジーに対しても継続的なメンテナンスを怠たると、それこそ映画『猿の惑星』みたいことが起きてしまう。

関:そう。それが、テクノロジーを考えるうえでの「前提条件」なんだと考えてます。自動車は人間より速く走れますが、人間なしの自動車は考えられません。AIも同じ。人間の手を離れて自動で成長できるエコシステムができるまでは、人間が主体的に強く介在していかないと、簡単にロストテクノロジーになると思います。

  

AIに対する心配は、過剰な「感情」から引き起こされる

――ただ、一方で、「AIに仕事が奪われる」「AIに支配される」といった話題も多いですよね。例えば、今年の8月2日、Facebook社内でAI同士が人間に理解できない言語で勝手にしゃべりだした。そこで慌てて電源を落として止めたというニュースがありました。こんなことが話題になるのもどこかAIに対する恐れが背景にあるからでしょう。

関:あれ、実際の会話の内容は、たいしたことは言ってなんですよね。

――ええ。「あれは、あれは、あれは」みたいな繰り返し(笑)。

関:あの会話自体は、プログラム言語が勝手にプログラムを最適化している過程をみているようなもので、たいしたことはありません。恐れるような類のものではない。「怖い」という意味でいえば「自動ドア」の方がよっぽど怖い。

扉が自動で開くなんて昔の人から見ればまるで「魔法」ですよ。それに、もし人がいるのに勝手に閉まったら、簡単に人を殺せる。システムに身を委ねることができるのも、最後は人間が「制御できている」と信頼しているから。そして自動ドアがある社会に「慣れている」からですよね。

その意味では、AIがある世界にもいずれ「慣れる」と思います。ただし、そのとき人が制御できていることをみんなが理解していることがカギでしょう。またAIを感情的に怖いと感じてしまうのは、AIが何かと「擬人化」して語られることも原因です。擬人化したものに対して人は「無用の怖さ」を感じます。このことも社会的に認知される必要があるでしょうね。

   

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人は「分からない」ことに感情的な反発、既存の枠組みで批判をする

――問題になりそうなのは、人が意識せずなんでもAIに任せるようになっている状態ですね。「AIだけで完結して成長できるエコシステム」ができるのはいい。だけど、そのシステムを人が理解できない状況は危ない。

関:そう。これはテクノロジーの話だけじゃなくって、組織もそうです。いま「企業」が引き起こしている数々の問題も同じです。会社ができた当初は「理念」に基づき、期待されたファンクション、役割があり、働く人たちもそれを自覚していた。ところが、いつの間にか「理念」「期待された役割」に立ち戻ることを忘れ、勝手に動き出したり、まったく働かなくなったりしている。

本来、理念や期待されたファンクションに戻って考えれば「例外的なケース」にだってちゃんと対応できるはずです。なのに、それができない、分からないので結局、動かない。思考停止に陥っているばかりか、新しい仕事に対しても拒否的な反応をするようになるんです。

――思考停止と感情的な反発。

関:「AIの登場でこれまでの仕事を任せられるようになる」。そのこのことをラッキーと思って、別のことを始める人たちがいる一方で、このブレークスルーに対して足をひっぱる動きもあるでしょう。

2003年、シックス・アパートが「ブログ」サービスをはじめた時もそうでした。かつてネット上に載っていた文章はプロが書いたものか、プロの目を通したものしかなかった。それがブログの登場で、プロ以外の人たちでも日記や文章を公開しやすくなりました。ウェブが登場した1990年代後半は、プロの文章が安く大量に届けられるようになるという「量的な転換」にとどまっていました。これに対してブログの登場は、今まで情報の「受け手」でしかなかった人たちを、情報の発信者に変えてしまった。これはまさにネットコンテンツの「量的な変化」から「質的な変化」でした。

ところが、当時は「個人の日記をさらすなんて信じられない」「素人の文章など読まれるわけない」とネガティブな反応が多数ありました。「ブログを書いて、おかしいコメント、書き込みがあったらどうする?保証してくれるのか?」と詰め寄る人もいました。「いやいや、それは道で突然しゃべりだした人を全員取り締まれ、といっているのと同じですよ」と説明しても納得しません。新しいものがでてきた時、カオス的な状況がうまれた時、感情的に拒否反応をし、既存の枠組みを使って排除しようとする動きもあるんです。

  

組織の論理よりも、「個と個の関係」が優先される

――いま、経営者たちは難しい戦いを求められているなぁと思うんです。会社としては内部統制、コンプライアンスは遵守したい。でも、次の大きな事業を作りたい。ただその場合、既存の枠組みからはみ出してしまう場合もある。Uberしかり、Airbnbしかり。かつてのGoogleストリートビューみたいに、「既存の規制を壊し、新しい枠で規制をかけ直す」ことを前提としてビジネスを仕掛けていますよね。この点、米国はうまくやっているように思うのですが。

関:株式会社が「利益を追求する組織」である以上、収益を生むかどうか分からないリスクがあるもの、矛盾するものを複数、抱えることはやはり難しいんです。

だから、割り切って社内には置かないで早めに外に出してしまうか、外にあるものを育てたうえで取り込むするかしかない。いま大企業として戦略的に重要なのは、スタートアップのひとたちに「この会社の人たちと一緒に仕事をしたい」と思ってもらえるパートナーになることです。

Google、Facebookはもはや巨大企業なのに、「うちにはスタートアップのカルチャーがある」としきりに宣伝し続けているのも、スタートアップのひとたちに「買収されても、その会社に残って仕事を続けたい」と思ってもらうため。新規事業は企業の成長のためには不可欠である以上、スタートアップを成長させる「エコシステム」の一部の役割を担うことが企業には不可欠なんです。

――ベンチャーとの提携では、資本政策で悩みます。現在の株式会社は不自由なところが多い。

関:いくつものアライアンスに携わって分かったのが、提携に同じものはなく、どれも違うということです。大企業はついつい同じフォーマットでやりたがります。共通のフォーマットで自分たちのやり方を強要したり、「こちらが買ってあげるのだから、こちらの都合に合わせてくれるだろう」と期待したりします。でも “主従関係”ができちゃうとスタートアップ側は面白くない。大企業に対する不満を募らせ、最終的にまとまらず、お互いに傷つくパターンも少なくありません。米国で買収を進める巨大企業たちが「どうやってスタートアップの人たちに長く働いてもらうか」と考えているのと対照的です。

提携や買収で大事なのは「相手」の立場です。対等な相手として、相手のもっているポテンシャルを最大限にするにはどうすればいのか。その発想で考えれば、提携の形は毎回違うのは当たり前だし、いろんなことをあらかじめ決めておかないといけないのも自然。「提携の段階で破談時の話は言いづらい」から曖昧にするのではなく、相手のことを本当に考えるならば、破談になった時の諸々の条件を考えておくことは、不可欠なんです。

――それって、会社と会社の関係だけではなく、個人と個人の関係にも当てはまりますね。組織内での年功序列は壊れているのに、価値観は残っています。65歳からさらに働く時代を迎えた時、「年功序列」「上司・部下」の価値観をあっさり捨ててリセットできるか。「100年ライフ」時代って、個と個の関係で、お互いが「与え・与えられる関係」じゃないと生きていけない…。

関:僕が米国に拠点を構えている理由もそれ。今年は歳男で48歳になります。この年齢で若いひとたちと一緒に現場で仕事をやっていると、大企業のひとに「よくやっているね」「うらやましいね」と言われるんです。でも「自分もやってみたい」とは言われない(笑)。認めてはもらっているけど、共感はされていないんです。でも米国だと年齢は関係ない。相手が26歳のエンジニアだろうが、プロジェクトによっては、その子がリーダー的な役割で動いても違和感はありません。年令や性別、バックグラウンドを意識せずに自然に働ける環境が、自分にとってはラクなんです。

  

とりあえず、「in Japan」と「I think」を止めることからはじめてみる

――Future Society 22のサイトの冒頭ページにも書いたのですが、私たちは、今後世界は「限界費用ゼロ社会+共感資本主義社会」に移行していく、と見ています。もちろんいきなりそこに辿り着くとは思っていません。実際、米国も人種的な差別は続いているし、昨年の選挙戦でも明らかになったように、テクノロジーの進歩や経済的な成長を享受できていない人たちの不満も高まっています。関さんはこうした「未来の社会像」をどう思いますか。

関:「限界費用ゼロ社会」はやってくると思っています。情報コスト、社会インフラコストで、これまで「おカネ」を払っていたものがテクノロジーの進化、シェアリングの考え方が広まることで、限界まで下がっていく世界は想像できます。ただ一方で、「共感資本主義」に関しては、米国もエモーショナルな断絶がある。いくつか乗り越えなければならないハードルがたくさんあると思います。

 ちょっと話はそれますが、僕、日本人がしゃべる英語で気にさわるフレーズが二つあるんです。1つが「in Japan」、つまり「日本では…」です。「日本では~」と条件を付けてしゃべる人が本当に多いんです。お互いの信頼関係なりコンテクスト(話の流れ、文脈)があればいいんだけど、いきなり日本の話をはじめるので、相手は戸惑うんです。「お前のことは知らないけど、俺たちはこういうことをやっているんだ。特別なんだ」というふうに聞こえるんですね。

―― この場で、なんの脈絡もなく「アラバマ州では…」と話をされても「え、何?どこの話?なんでアラバマ?別に関心ないんだけど」とおもっちゃいますよね。

関:そう。あともう1つ多いのが「I think~」です。ほとんどの文を「I think」で始める

人も少なくないんです。「え、自分が考えているから、話しているんじゃないの?」とか「I thinkがつかない文章は、絶対的真理を話しているの?」と突っ込みをいれたくなるほど多いんです。

心情は分かります。「世界的な事情は把握していません。が、少なくとも日本ではこうなんですよ」とか「全部の例は知りません。が私はこう思いますよ」という謙虚な気持ちから言っているんでしょう。でも相手に与える印象はまるで「逆」。自分の主張しか興味がなく、「対話」を拒んでいる印象があるんです。

会話って相手のことを話題にしてしゃべらないといけない。なのに「我々はこういうことをやっています」「わたしはこう思います」ばかりだと、自分の事情ばかりを押し付けているように聞こえます。特に日本の大企業に勤める人たちは、同質的な社会で長く生きているためなのか、相手の価値観が自分と同じと考えて、驚くほど相手の興味やインセンティブに無関心です。これでは相手から「共感」は得られない。日本企業、日本人の交渉下手の理由は、ここにあると思っています。「共感」を重視する社会では、まずは相手のことを知りたいと考える、知ろうと動くことが求められると思います。

この10数年間振り返ると、僕は結局、一緒に働く人たち一人ひとりのやる気ばかり考えていた。「スタートアップ」で働く人たちとはいえ、みんな興味・関心、やる気になるポイントが違う。ベクトルは一定方向にそろってないんです。それでも「やる気の総和」を最大にするにはどうすればいいのか。その答えを求めてきました。でも、これって正解がある世界ではない。組織としてのルール化はできず、「個と個の関係」を高めていくことからしか始めていくしかないんです。

――なるほど。「個と個の関係に立ち戻る」、「原点に戻って考える」、というのが今日のテーマだったかも。テクノロジーとの付き合い方、大企業とスタートアップの提携。働き方もそう。共感資本主義もそう…。すべてに共通する話ですね。

※このブログは「Future Society 22」によって運営されています。「Future Society 22」は、デジタル化の先にある「来るべき未来社会」を考えるイニシアチブです。詳細は以下をご確認ください。

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